障害福祉サービスと法人税

国税庁は、NPO法人障害福祉サービスを行う場合の法人税の取扱いについて、「質疑応答」という形で公表しました。2017年7月24日のことでした。

 [NPO法人が障害者総合支援法に規定する障害福祉サービスを行う場合の法人税の納税義務について]国税庁のサイト

この内容について腑に落ちないところがありますので、探ってみたいというのが、この稿の目的です。腑に落ちなさというのは、「請負業」に該当するとしている部分です。

 1. 公益法人法人税

法人税法上、公益法人は収益事業から生ずる所得以外は、法人税は課されないこととされています。この収益事業は、法人税法施行令第5条で34事業が定義されています。ここで列挙されている事業に該当しなければ法人税が課されないことから「制限列挙」または「限定列挙」と呼ばれております。

法人税法の限定列挙主義の立場から、公益法人の営む事業が収益事業に該当する場合には法人税の納税義務があるということが原則です。

 逆に言うと、公益法人は収益事業に該当しない限り法人税は課されないことになります。

2. 質疑応答の趣旨

質疑応答の記述は次のようになっています。

 「NPO法人が行う障害者総合支援法に規定する障害福祉サービスは通常、医療保健業か請負業のいずれかに該当し、法人税の納税義務があります。」

 要するに、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスは、原則として「医療保健業」に該当し、そうでない場合には「請負業」に該当するとしています。

3. 関連する法令解釈

今回の「質疑応答」には、その前段となる通達等があります。

  1.  介護サービス事業に係る法人税法上の取扱いについて(法令解釈通達)(課法2ー6平成12年6月8日)
  2. 支援費サービス事業に係る法人税法上の取扱いについて(取引等の税務上の取扱い等に関する事前照会) 平成15年9月17日国税庁課税部長回答

「質疑応答」の内容を拝見する限り、その内容がこの2つの解釈とほぼ同一であることが分かります。介護サービスや支援費サービスについては原則として「医療保健業」に該当することが明示されております。

ただし、これらの通達や解釈が公表されたのは、障害者自立支援法(平成18年10月施行)以前でした。

この時点では、障害者総合支援法*1のいわゆる「就労系サービス」すなわち「就労移行支援」「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」は存在しておりませんでした。したがって「就労系サービス」に関する解釈通達はなかったと言って良いと思います。

今まで、ここで問題とされる「就労系サービス」は、法人税法上の収益事業34のケースに該当するものがないとして、課税対象外であるとする見解が一般的でした。収益事業の限定列挙主義からいえば該当する事業がなければ課税対象とならないというのはごく当たり前の議論です。

この「就労系サービス」をどのように扱うかということが、今回の「質疑応答」の最大の眼目であることがわかります。

4. 今回の「質疑応答」の眼目=就労系サービスの取扱い

「質疑応答」では、「医療保健業」か「請負業」に該当するので、いずれの場合も収益事業に該当するとしております。その説明は次のような構成になっております。

(ア) 就労系サービスは、看護師の関与などが求められていないことから、「医療保健業」とは言えないのではないかとの議論があること。

(イ) 基本的には、障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスは原則的に「医療保健業」に該当すること。

(ウ) 実態として医療や保健といった要素がない(ア)のようなケースがあったとしても、それは「請負業」に該当すること*2

5. 「請負業」ということ

法人税法施行令第5条第1項第29号では「医療保健業のうち次に掲げるもの以外のもの」として、同ロには「社会福祉法第22条に規定する社会福祉法人が行う医療保健業」として、社会福祉法人が営む場合を除外しております。

 二十九  医療保健業財務省令で定める血液事業を含む。以下この号において同じ。)のうち次に掲げるもの以外のもの
イ 日本赤十字社が行う医療保健業
ロ 社会福祉法第二十二条 に規定する社会福祉法人が行う医療保健業
(以下、略)

同第10号では「請負業のうち次に掲げるもの以外のもの」としておりますが、社会福祉法人は除外されておりません。

十  請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)のうち次に掲げるもの以外のもの
イ 法令の規定に基づき国又は地方公共団体の事務処理を委託された法人の行うその委託に係るもので、その委託の対価がその事務処理のために必要な費用を超えないことが法令の規定により明らかなことその他の財務省令で定める要件に該当するもの
(以下、略)

 誤解を恐れずに言うと、このあたりが「問題」となると思います。社会福祉の周辺にいる者として、請負業に該当するとするその論拠(上記第4項(ウ)カッコ書き)には違和感を覚えます。この違和感の元は何なのでしょう?

*1:障害者自立支援法は、平成26年4月1日から「障害者総合支援法」に改組されました。

*2:その理由として、「障害者総合支援法の下で、事業者と利用者との間で利用契約を締結し、利用者からそのサービスの対価を受領することになりますので、そうした契約関係等を踏まえれば、法人税法施行令第5条第1項第10号に規定する収益事業である「請負業(事務処理の委託を受ける業を含む。)」に該当」するとしています。